ていねいな暮らし、あきらめました。

丁寧な暮らしに憧れているものの、ちょっと無理。おおざっぱに、しあわせに。

肉じゃがは「おふくろの味」でなく「わたしの味」。

「肉じゃがが得意だなんて家庭的な自分をアピールしているようだから、言わない方がいいよ。」

 

数十年前、若かりし大学生時代。3つ上の先輩に言われた言葉だ。

話の流れは覚えている。

「趣味は何?」と聞かれたから料理だと答えたら「じゃあ得意料理は?」と聞かれて肉じゃがと答えたのだ。

 

実はそんなに胸を張って得意と言えるほど、肉じゃがに絶対的な自信があったわけではない。

しかし、上京したてでやっと自分が好きな時間に好きなものを作って食べることができる喜びで色々な料理を作っている中、大抵の家庭料理は本を見ながら作ることができても自分のスペシャリテはまだ持ち合わせていなかった。

たまたま飲み会の直前に肉じゃがをうまく作ることができたので、咄嗟に答えただけなのだ。

 

だから、そんな言葉を投げかけられたのは想定外だった。別に傷ついたわけではないが、自分が家庭的なアピールをしていると思われているのが妙に癪で「じゃあ、ハンバーグにします」と答えたら先輩は満足そうに頷いていた。ハンバーグも大して得意ではなかったけれど。

 

そもそも、「肉じゃが」といえば「おふくろの味」が連想されるようになったのはいつからで、誰が言い出したのだろう。たしかに当時の私自身の中にもこの2つのワードは確かに既に紐づいていたのであった。

 

実際、母が作った肉じゃがを食べた記憶は全くない。せいぜい給食で食べた程度。
仕事と育児と介護で毎日忙しい母がよく作っていたのは、白菜とえのきとマロニーが多い寄せ鍋と、手羽先を塩振って焼いたものと、八宝菜。
肉じゃがを作らなかった理由はおそらく、母がじゃがいもが苦手だったことから進んで作らなかったのだろうと思われる。

 

だから、自分で肉じゃがを作って食べたり外で食べたりすると「おいしいな」と思うことはあっても「懐かしいな」と思うことは、なかった。

 

別に、このことをネガティブに捉えているわけではない。考え方を変えれば、過去にとらわれず自由にワガママに肉じゃがを作ることができるのである。

牛肉を入れてもいいし、豚肉を入れてもいい。水を入れても出汁を入れてもいい。私には「我が家の肉じゃがの定義」がないのだから。

 

先日は料理家・今井真実さんの肉じゃがを作った。

 

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これまで数年かけて様々なレシピを試してきたけれど、今井さんの肉じゃがは独特。お肉は切り落としでなくひき肉を使うし、水も入らない。

レシピ通りの分量で作ると20センチのストウブが具材でいっぱいになった。ちょっと混ぜにくい。24センチの鍋にすればよかったなあ、と思いながら仕上げて鍋ごと食卓に出した。「おいしい!」家族も私も何度もおかわりした。
シンプルだけどコクがあって、「肉じゃがは果たして主食になるのか?」といった議論を不要とするほどご飯に合う。本当に、おいしい。

 

これからも肉じゃがのレシピに出会うことはあるだろうし、きっと試しもする。でも、「わたしの肉じゃが」はこのレシピをベースに磨いていこうと思う。具体的には、私が好きなインゲンを入れてみたい。あとは家族全員が薄味派なので、少し調味料の量を調整してみよう。

 

「わたしの味」の肉じゃがが、家族にとっての「我が家の味」になることをほんのり期待して。料理の練習は続きます。

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